微生物には、細菌、ウイルス、真菌、バクテリア、病原体…等々さまざまな名称があり「なんとなく小さくて身体に入ると悪さをするもの」という漠然としたイメージでしか把握していない方は多いのではないでしょうか。
それぞれの特徴や体の構造、違いに焦点をあてて、詳しく見ていきましょう。とくに構造について知っていれば病気への対処がうまくできるため、日常においても役に立つ知識であることは間違いありません。
この記事の目次
細菌とウイルスの違いと特徴
細菌とウイルスにはその構造上に相違点がいくつもありますが、最たるものは「細胞を持つかどうか」という点でしょう。
細菌の特徴
細菌の身体は、ひとつの細胞からできておりいわゆる単細胞生物となっています。
また、細菌は口や皮膚に出来たキズ、鼻や目、その他さまざまな経路を使って人間など生物の体内に侵入してきます。体内入った細菌はその生物の細胞の隣に陣取り、栄養素を横取りし吸収してエネルギーをたくわえます。
それと同時に生成した毒素を排出し、周辺の細胞を殺したり弱らせたりしてしまいます。周りの細胞がいなくなると、先ほど吸収しておいたエネルギーで自分の複製を作り(細胞分裂)、仲間と子孫を増やしていき、体内で勢力を拡大していきます。
生物ですので当然の行動ではありますが、体内に入られた側はこれにより身体の一部が痛くなったり動かないなどの不調を来たすことになってしまい、病原体と言われています。
ウイルスの特徴
いっぽうで、ウイルスはもっと特殊な体の構造を持っています。なんと細胞自体を持たない、核酸(遺伝情報)とそれを包む少量のたんぱく質からなるものなのです。
そのため「細胞を持つものが生物だ」という定義に従うと、ウイルスは生物ですらない謎の存在ということになってしまいます。実際、「宇宙から来た」という説まで飛び出すほど既存の生き物とはかけ離れたものなのです。
とはいえ子孫を残すための活動をするなどの特性はあるため、やはり生物の一種とは考えられています。ウイルスは細胞がないため、いくら栄養が周囲にあっても自分だけでは増殖することが出来ません。
そのため人間など他の生物の体内に入りこみ、体内だけでなく細胞の中にまで侵入します。細胞に入ったあとはその核(遺伝情報の入った中枢部分)に自分の遺伝情報を注入し、いわば「乗っ取り」を行うのです。
乗っ取られた細胞は与えられた命令通りにウイルスを増殖させ、そのうちに増え過ぎた彼らによって内部で破裂、ばらまかれた彼らはまた別の細胞に侵入・・・とこれを繰り返すことによって体内でどんどん増え、細胞も死んでいってしまいます。
細胞のあるなしが大きな違いであるため、大きさの点でもウイルスはとても小さいのに対し、細菌は細胞の分だけ大きいものです(といっても肉眼では見えません)。
真菌とは
ちなみに真菌(カビ)というものもあり、これは細菌に似て細胞を持っていますがそのなかに核を持っている点が違っています。大きさも細菌よりやや大きく、基本的には周りの細胞を殺さず自分だけで増えていくのが特徴です。
とはいえ体内に入ったりすると毒素を排出したりアレルギーの原因にもなるため、病気を引き起こす病原体の一種であることは間違いありません。
その代わり真菌はその性質から、ある種のものはアルコールや発酵食品を作るのに使われ、食べても無害なものも存在します。
細菌とウイルスの対策と治療
ウイルスと細菌は構造が全く異なるため、その予防法や治療法も違ったものを採用することになります。
細菌に対する予防と治療
細胞を持った細菌が引き起こす病気としては、O-157や肺炎、結核、中耳炎や破傷風、敗血症などがありますが、これらの治療にはいわゆる「抗生物質」が非常に高い効果を発揮します。
抗生物質の発見は現代の医学が成し遂げた最大の成果だという医学者もいるほどで、その効果はてきめんです。塗る、あるいは内服することで一日二日で完全に治ることもあるほどの抗生物質ですが、その発見までには長い道のりがありました。
そもそも、細菌はひとつの細胞でできています。これを殺したいわけですが、人間の身体もまた無数の細胞で出来ていて「細胞を殺す薬」などを飲んでしまうと人体にも大きなダメージがあるため、治療どころではなくなってしまいます。
そこで、「人間の細胞と病原体の細胞の違い」が長く研究されてきました。その結果、病原体の細胞には「細胞壁」があることを医学は突き止めます。
つまり、「細胞壁」を破壊する成分を使えば人体には無害なのに細菌だけ死ぬという夢のような薬が出来るわけで、これが抗生物質なのです。
有名なペニシリンを代表とする抗生物質は細胞壁を溶かす作用があり、細菌には特効薬として効果を発揮しました。こういった薬のほかに、病原体の細胞を食べて殺してくれる白血球など人体に備わった免疫機能を高めて維持することが治療法・予防法としても有効です。
殺菌以外にも、手指やのどに付着した菌を物理的に洗い流す手洗いやうがいも有効です。
ウイルスに対する予防と治療
いっぽう、効果絶大な抗生物質もウイルスには何の効果もありません。細胞壁を攻撃する薬品ですから、そもそも最初からそんなものを持っていないウイルスには全く効かないのです。
体の構造がひどく単純なだけにウイルス対策は非常に難しく、現在でもいわゆる抗ウイルス薬はさほど種類が多くない状態にとどまっています。
特定のウイルス以外には特効薬が存在しないため、治療より予防のほうに重きを置いているのが現状です。ポリオ、麻疹、風疹、日本脳炎などへの予防接種はあらかじめ注射することによって抵抗をつくる予防療法であり、治療が難しいうえに感染力が強いために国によってこれを接種することが義務付けられています。細菌と同様、うがいや手洗いで物理的に洗い流すのも効果があるため、インフルエンザなどの予防には必ずこれらが第一に推奨されます。
また、体内では使えない手段ですが、物についた病原体を殺すには「熱」がもっとも有効です。
たんぱく質で出来ているのは確かですから、熱でたんぱく質を変性させてしまえばかならず殺すことが出来るのです。このため、医療用のリネンや金属部材は必ず薬剤だけでなく熱湯消毒することになっています。
熱と同じくらい有効なのが水分を奪う「乾燥」であり、夏場の台所周りなど病原体が増殖しそうな場所では常に乾燥を心がけておくと良いでしょう。
まとめ
細菌、ウイルスの構造の違い、とくに細胞であるかどうかをよく理解しておくとそれぞれに対する備えも効率的に行うことが出来ます。
たとえばアルコールは脂質を分解して膜などを破壊するため除菌効果を持ちますが、脂質の膜を最初から持たないウイルスには無効というように、日常においても細菌とウイルスの相違点は知っておいて損はありません。
医師などの専門家に頼るのはもちろん、セルフメディケーションや予防医学に基づいて自分の健康を守る意識が必要とされる現代、こういった知識を積極的に身に着けていきましょう。