人や物の名前が思い出せないなどの物忘れは、年齢に関わらずよくあることです。
しかし会話の中で「あれ」や「それ」といった言葉が多くなって話の内容が抽象的になってきたり、頻繁に使っている物の収納場所を忘れたりすることが続いてくると、「もしかしたら、自分は認知症なのかもしれない」という気持ちが強くなってきます。
もしも初期症状が出ているとしたら早めの対処が必要になるため、それぞれの特徴や症状の違いを知っておくことは大切です。
この記事の目次
認知症とは
脳は各部位に必要な動きを指示して体の機能を安定させる役割があります。自律神経やホルモン分泌の調節、感情のコントロール、記憶を定着させて必要な時に引き出すなど、円滑に生活するための様々な機能を司っています。
認知症とは脳に何らかの問題が発生して、これらの機能が上手く働かなくなって起きる症状です。認知症には複数の原因があり、いずれも症状が進行してくると生活に支障が出てきます。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型は最も発生率が高い認知症で、認知症患者のうち半数以上の方がアルツハイマー型と診断されています。
老人斑(脳にできるシミ)や神経細胞が損傷を受けて神経原繊維変化(神経細胞の中の繊維状の塊)が出てくると、記憶を司る海馬が委縮してくるため、記憶障害や判断力の低下が目立ってきます。
直前の事すら思い出せなくなってしまうため、同じことを何度も聞いてくることがあり、空間や時間を認識する能力が衰えてくるので、ご飯を食べたのか分からなくなる、自分の現在地がよく分からないといった見当識障害が出てきます。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、脳にタンパク質がたまってきて次第に神経が壊死することで発症します。視覚を司る神経に影響を与えるため、誰かが近くにいるといった幻覚を見たり、自分が子供であるような錯覚を起こすことがあります。
呼吸や筋肉に影響を与えることもあるため、手足の震えがひどくなったり、表情が乏しくなるケースもあります。気力の低下や食欲不振などのうつ症状が強くなると、寝ている時に大声で叫ぶ、手足を大きく動かして暴れるといった、レム睡眠行動障害が出てくることがあります。
脳血管性型認知症は、脳梗塞やくも膜下出血など、脳の血流が停滞して細胞が壊死することで発症します。細胞が壊死していない部分は正常に働くため、物忘れは酷いけれど判断力はしっかりしているなど、症状にムラがあるのが特徴です。
まだら認知症
その日の体調によってできる時とできない時があるのは本人の気分によるものではなく、まだら認知症の可能性があります。まだら認知症になると、朝は会話ができたのに夜は話すことができなくなったなど、1日の中でも症状に差が出ることがあります。
若年性認知症
年齢が高くなるにつれて認知症の発症率は高くなるものですが、64歳以下で発症すると若年性認知症と診断されます。記憶力や判断力の衰えといった症状があり若い世代であることから、うつ病と診断されるケースも少なくありません。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は、他の認知症と比べると記憶力には影響が出ない認知症です。初期の段階では物忘れは少ないのですが、言葉の意味が分からなくなることがあります。
症状が進行すると簡単な漢字が読めなくなったり、人の顔が覚えられなくなることがあり、欲求が抑えられなくなるので反社会的な行動を繰り返すなど、わがままな行動が目立ってきます。
早期発見が大切
認知症は高齢者が発症するという印象が強いため、若い世代が発症すると周囲も患者本人も認知症だとは気付かないことが多いようで、認知症だと診断されるまでには時間がかかってしまうことがあります。
アルツハイマー型のような認知症は症状が緩やかに進行していくので、始めは単なる物忘れだと思い込んでしまいますが、症状がひどくなってくると徘徊や妄想など生活に支障をきたすような行動が増えてしまうので、「以前とは何かが違う」といった違和感が強くなってきた時には、早めに診察を受けてみましょう。
物忘れと認知症の違い・見分け方
一時的な物忘れと認知症は、「忘れる」という点で同じ状態なので、症状の違いが分かりにくいかもしれません。物忘れと認知症にどのような違いがあるのか、詳しく確認してみましょう。
物忘れと認知症の大きな違い
「最近物忘れが多くなったので困っている」と悩んでいる場合の多くは、加齢による物忘れです。認知症になると物忘れをしている自覚はないため、本人よりも周りが気が付くことの方が多いようです。
例えば、誰かと合う約束をしたとして、時間や場所などを忘れてしまったというのは物忘れであり、約束したことすら覚えていないというのが認知症になります。
また、判断力や記憶力は加齢によって低下していくため、若い頃よりも決断に時間がかかるようになったり、物を覚えることが苦手になることがあります。
これらは白髪やシワと同じように脳の老化現象なので深刻に考える必要はありませんが、簡単な作業ができなくなって何度も失敗を繰り返すことや、いつも歩いている道なのに迷ってしまうことが多くなった場合は、物忘れではなく認知症の可能性が高くなります。
体に染み付いたことを忘れる
めったに合わない人や芸能人の名前が思い出せないことはよくありますが、何度も顔を合わせている人やよく使っている道具の名前が思い出せないのは認知症による物忘れです。
物忘れはきっかけさえあれば思い出せるのですが、認知症は思い出すためのヒントがあったとしても思い出せません。どこに何をしまったか思い出せないことが多くなり、しまいには誰かに盗まれたという妄想を抱いてしまいます。
忘れる以外の症状がでてくる
物忘れをしていることがすっぽりと抜け落ちているため、本人にとっては存在していない出来事なのです。そのため、周囲の人が確認した時にはつじつまを合わせるために話を作ったり、興奮して怒り出すことがあります。
認知症が進んでくると外見や行動が変化してくるため、それが早期発見の目安になります。おしゃれで服装に気を使っていた人が身だしなみに関心がなくなってしまい、人付き合いを避けるようになって次第に外出しなくなって部屋に引きこもってしまいます。
人の意見に耳を貸さなくなる、些細なことで怒りっぽくなる、ニュースや趣味などに関心が持てなくなる、何をするのも面倒になる、といった状態は物忘れには見られない症状です。
認知症の初期症状テスト
「もしかしたら自分は認知症かもしれない」と気になる場合は、日々の行動をチェックしてみましょう。
・名前ではなく「こそあど言葉」のような指示語を使うことが多くなった
・テレビや新聞を見ていても情報が頭に入ってこない
・周りから注意されることや指摘を受けることが増えてきた
・物事に熱中すると周りが見えなくなる
・同じ物を好んで食べるようになった
・物事を計画的に進められない
これらは認知症の初期症状として考えられます。病院に行くのであれば、神経内科、脳外科、心療内科、精神科などがおすすめです。
まとめ
物忘れと認知症の大きな違いは、本人に忘れている自覚があるかどうかです。昔の出来事ならともかく、直前の記憶まで抜け落ちてしまうため物事がスムーズに運ばなくなり、症状が進むにつれて生活に支障が出てしまいます。
物や人の名前が思い出せなくなるだけでなく、以前と比べて性格や行動が大きく変化している場合は早めに専門の医療機関を受診しましょう。
加齢による物忘れの場合は、脳に刺激を与えることが物忘れ対策になるので、パズルやクイズのような頭を使うゲームをしたり、新たな分野の趣味を始めたりすると、脳のトレーニングになります。